「写真を撮るとき、いつも下あごが気になって自然に笑えない…」
「横から見た自分の顔に、どうしても自信が持てない」
「しゃくれた顔立ちが恥ずかしくて、人前で大きな口を開けて笑えない」
もしあなたがこのようなお悩みを抱えているなら、この記事はきっとお役に立てると思います。
私は現在、埼玉県大宮の裏側矯正専門セレーノ矯正歯科医院の院長として、25年以上にわたって歯列矯正治療に取り組んでいます。これまでも「しゃくれが気になる」多くの患者さんのお悩みと向き合ってきました。
ただし、治療を始める前に知っておいていただきたい重要なことがあります。受け口(反対咬合)の治療について、インターネット上には楽観的すぎる情報も多く見られますが、現実はそう単純ではありません。良い面も厳しい面も、正直にお話しさせていただこうと思います。
も く じ
Toggle「しゃくれ」と「受け口」は違うものなのか?

まず、よく混同されがちな「しゃくれ」と「受け口」について、整理してお伝えしますね。実は、同じようにみえて少しだけい定義が異なるのです。
“しゃくれ”は、下あごが前に突き出して見える顔の輪郭
“しゃくれ”は、下あごが前に突き出して見える顔の輪郭のことを指します。特徴をまとめると、は以下のようなものといえるでしょう。
- 横顔を見たときに下あごが出っ張って、目立つ
- 正面から見ても下あごの張り出しが分かる
- 主に骨格(あごの骨の大きさや位置)が原因
- オトガイ(下あごの先端部分)の突出が特に目立つ
主に外観上の特徴を指して、”しゃくれ”とされることが多いように思います。
受け口は、下の前歯が上の前歯よりも前に出ている噛み合わせの状態
一方、受け口は下の前歯が上の前歯よりも前に出ている噛み合わせの状態のことで、外観以上に、機能的な問題として位置づけられます。歯科では「反対咬合(はんたいこうごう)」と呼んでいます。受け口の特徴は、下記のようなものです。
- 歯を噛み合わせたときに下の前歯が前に出る
- 前歯で物を噛み切れない
- さ行・た行の発音がしづらい
- 原因は歯の傾きや骨格の両方の場合がある
受け口は、矯正歯科医の見地に立つと、機能的なデメリットも多い小堤ですので、将来的なリスクを考えると早めに治療した方が良い状態といえます。
“しゃくれ”と”受け口”は同時に発生している
私の25年の臨床経験から言うと、多くの場合、”しゃくれ”と”受け口”は同時に起こっていることが多いです。パターンとしては以下の3つに分けられます。
1. しゃくれのみ(骨格性)
- 下あごの骨が大きい、または位置が前方にある
- 歯並び自体は正常な場合もある
- この場合、外科手術が必要になることもある
2. 受け口のみ(歯性)
- あごの骨格は正常だが、歯の位置や傾きに問題がある
- 見た目の「しゃくれ感」はそれほど強くない
- 歯列矯正で改善可能
3. しゃくれ+受け口(混合性)
- 骨格と歯並び両方に問題がある
- 最も多いパターン
- 程度により歯列矯正のみで改善可能
正直にお伝えしたい、しゃくれ・受け口治療の現実

ここで、とても重要なことをお話しします。
日本人の反対咬合の約2/3は骨格性である
私の臨床経験と、学術的なデータから言えることは、日本人の反対咬合(受け口)のうち、約2/3は骨格性だと考えています。
骨格性の反対咬合とは、あごの骨そのものの大きさや位置に問題があるケースです。この場合、残念ながら歯列矯正だけでは根本的な改善は困難で、外科手術が必要になることが多いのが現実です。
つまり、「受け口は矯正で治る」という情報をよく見かけますが、実際には日本人の多くは矯正歯科のみではしゃくれは良くならないというのが正直なところです。
歯性反対咬合と機能性反対咬合なら矯正で美しく改善できる
一方で、約1/3にあたる歯性反対咬合の方は、歯列矯正で改善できます。歯性反対咬合とは、骨格には大きな異常がなく、歯の傾きや位置異常によって生じる反対咬合です。下唇が突出していますが、矯正治療により改善できます。
機能性反対咬合とは、骨格には大きな異常がなく、歯の傾きや位置異常によって生じる反対咬合です。簡単に言うと、歯の位置や傾きが原因で、下あごが前にずれてしまっている状態です。
この場合、前歯の位置を適切に移動することで、下あごが前にずれなくなり、結果として下顎骨がわずかに後退します。つまり、しゃくれが軽減しやすいケースなのです。
骨格性か、機能性か、簡単な見分け方
ご自分がどちらのタイプか、簡単にチェックする方法があります。
上下の前歯を「端と端」で合わせて噛むことができるかどうかを確認してください。
- できる場合 → 機能性反対咬合の可能性が高く、歯列矯正で改善可能
- できない場合 → 骨格性の可能性が高く、外科手術が必要な場合が多い
ただし、これはあくまで簡易的な判断方法です。正確な診断は、専門医による詳しい検査が必要です。
しゃくれ・受け口改善の外科手術について

骨格性の反対咬合の場合、外科手術という選択肢があります。しかし、これについても正直にお話ししなければならないことがあります。
外科手術を行える医療機関は限られている
外科手術を伴う矯正治療(外科矯正)を行えるのは、主に大学病院などの設備が整った医療機関です。当院では外科手術には対応しておりません。
技術的には、機材を揃えて申請すれば当院でも外科矯正への対応は可能ですが、患者さんの安全を最優先に考え、あえて対応しないという方針を取っています。
外科手術のリスクについて
外科手術には、必ず知っておいていただきたいリスクがあります。
というのは、外科手術を行った場合、大なり小なり知覚麻痺が出てしまうのが現実なのですね。これは、下あごの骨を切る際に、神経に影響を与える可能性があるためです。他にも、患者さんにとって、以下のようなリスクが伴うので、検討されている方は知っておいてください。
- 手術に伴う一般的なリスク(感染、出血など)
- 術後の腫れや痛み(ダウンタイム)
- 長期的な後遺症の可能性
- 経済的負担
外科手術をお勧めするケース
このようなリスクがあるため、私は医師から積極的に外科手術を勧誘するものではないと考えています。
ただし、「この顔では生きていけない」というほど強い悩みを抱えている方で、リスクを十分理解された上での強いご希望がある場合には、適切な医療機関をご紹介することもあります。
歯性反対咬合や機能性反対咬合の治療について

一方で、歯性反対咬合や機能性反対咬合の方については、当院でも積極的に治療をお勧めしています。
歯性であれば「もう大人だから手遅れかも…」と思う必要はありません。歯性反対咬合や機能性反対咬合の場合、大人になってからでも美しい改善が期待できます。実際に当院では、20代から40代まで幅広い年代の患者さんが、美しい横顔と自信に満ちた笑顔を手に入れていらっしゃいます。
年代別に見たしゃくれ、受け口治療の実際
20代の患者さんの場合は、就職活動や結婚式を控えた方が多くいらっしゃいます。「社会人になる前に自信を持ちたい」という動機で治療を始められる方が多く、治療への協力度も高いため、理想的な結果を実現できることがほとんどです。
30代の患者さんになると、仕事が安定し、自分への投資として治療を選択される方が多い年代です。治療後に「もっと早くやれば良かった」とおっしゃる方が最も多いのも、この年代の特徴ですね。結婚や転職などの人生の節目での治療開始も多く見られます。
40代の患者さんでも、治療を決断される方がいらっしゃいます。長年のコンプレックスから解放され、性格も明るくなったというお声もいただきました。歯の健康への意識も高く、予防効果も実感される方が多いです。
大人の受け口治療はメリットが多い
ちなみに、20代にはいり、受け口治療を行う場合、美への意識や健康意識が高いため、よりよい治療結果を得られることが多いのです。
予測可能で安定した治療結果が得られる
大人の受け口治療は、骨格の成長が完了しているため、計画通りの歯の移動が可能です。子どもの治療のように成長による予期しない変化がないため、シミュレーション通りの仕上がりを実現しやすいのが特徴です。
計画的で効率的な治療進行が可能
歯の移動が中心となるため、治療期間の予測が正確です。大人の歯は歯根がしっかりしており、安定した移動が可能なため、無駄のない最短ルートでの治療計画を立案できます。
高いモチベーションによる良好な経過
治療の必要性を十分理解した上での開始となるため、日常のケアや通院に対する責任感が強く、医師との連携も良好でトラブルが少ないのが特徴です。20~40代の女性の場合、美への意識も高いので、当院にいらっしゃる患者さんを見ていると皆さんとても良好な経過をたどっています。
生活スタイルに合わせた治療選択
仕事や社交の場を考慮した矯正手法の選択(裏側矯正、マウスピース矯正)や、忙しいスケジュールに合わせた通院間隔の調整、ライフイベント(結婚式、転職等)に合わせた治療計画など、大人ならではの配慮ができます。
なぜ裏側矯正が「しゃくれ・受け口」治療に最適なのか?

25年間の臨床経験から、歯性や機能性のしゃくれ・受け口(反対咬合)の治療には裏側矯正が最も適していると確信しています。その理由をお話しします。
前歯を引っ込める力に優れている
裏側矯正は、歯の裏側から力をかけるため、前に出ている下の前歯を効率的に後方に移動させることができます。これは、しゃくれの改善において非常に重要なポイントです。この力の方向が、受け口で前に出ている歯を後方に移動させるのに非常に効率的なのです。
25年間の臨床経験から言えることは、裏側矯正は、受け口の改善において予想通りの結果が得られやすいのですね。たとえば表側矯正やマウスピース矯正と比べると、治療計画通りに歯が動いてくれる確率が高くなります。
また、受け口の治療では、歯の先端部分だけでなく、歯の根っこの部分まで適切に移動させることが重要です。裏側矯正では、この根の移動をより精密にコントロールできるため、治療後の安定性も優れています。
治療中も美しい見た目をキープできる
「矯正装置が見えるのが恥ずかしい」という大人の方にとって、裏側矯正は理想的な選択肢です。
会話中も矯正装置が見えづらく、写真撮影も自然な笑顔。仕事やプライベートでも、矯正中であることを気付かれにくく、精神衛生面で大きなメリットがあります。また、矯正完了後のイメージを持ちながら、とても自然に矯正できるため、美しい仕上がりを実現できます。
実際、当院の患者さんの多くが「周りの人に気づかれることなく治療を終えられた」とおっしゃっています。
より精密で美しい仕上がりを実現
当院では、患者さんお一人おひとりにオーダーメイドの装置を作製しています。顔全体のバランスを考慮した、より美しい仕上がりを実現できるのが、専門医院ならではの強みです。審美性において、これほど優れた手法は存在しないでしょう。
しゃくれ・受け口治療の実際の症例紹介

セレーノ矯正歯科医院で治療した、20代女性のケースをご紹介しますね。
主訴:受け口、下唇の突出
診断名:骨格性反対咬合
使用した装置: 上下裏側矯正装置
抜歯: 左下智歯のみ抜歯
治療期間: 2年4ヶ月
費用の目安: 125万円(税別、検査代を除く)
下顎骨の前方位があり手術を検討しましたが、患者さんとの話し合いにより、手術なしで治療を行いました。 悪い癖を取り除く協力をしていただけたので、とても美しい良い結果を出すことができました。
他の歯列矯正治療との比較

もちろん、歯性や機能性のしゃくれ・受け口(反対咬合)の治療には複数の選択肢があります。公正を期すため、それぞれの特徴をご紹介しますね。
表側矯正との違い
項目 | 裏側矯正 | 表側矯正 |
---|---|---|
見た目 | 装置が見えない | 装置が目立つ |
前歯の移動 | 優れている | 優れている |
快適性 | 慣れが必要 | 慣れやすい |
費用 | 一般的 | 一般的か、やや高額 |
マウスピース矯正との違い
マウスピース矯正も、目立ちにくい矯正治療として近年、人気を集めています。ただし、受け口を矯正する場合、重度の症例ですと、そもそもマウスピース矯正では改善が難しいケースがあります。かなり軽度であれば可能ですが、受け口治療は相対的に骨格性の状態を伴うことが多いので、対応可能なケースの方が少ないといえるでしょう。
また、マウスピースの自己管理が必要になってきますのでご注意ください。詳しくは以下の記事も参考いただければと思います。
よくいただく質問
歯性や機能性のしゃくれ・受け口(反対咬合)の治療の際、よくいただく質問について、ここでご紹介しておきますね。
Q. 自分が歯性か骨格性か、どうやって見分けられますか?
A. 前歯の「端と端」を合わせて噛めるかどうかが一つの目安ですが、正確な診断は専門医による詳しい検査が必要です。当院では、側方頭部X線規格写真などを用いて正確な診断を行います。
Q. 骨格性の場合、治療は全く不可能ですか?
A. 骨格性でも、歯列矯正により見た目の改善は期待できる場合があります。ただし、根本的な改善には外科手術が必要になることが多いのが現実です。
Q. 外科手術はどこで受けられますか?
A. 主に大学病院などの設備が整った医療機関で行われます。
Q. 大人になってからの治療は子どもより時間がかかりますか?
A. 実は、大人の場合、骨格の成長が完了しているため、より予測しやすく計画的な治療が可能です。子どもの治療とほぼ同等か、場合によってはより効率的に進むこともあります。ただし、骨格性の場合、外科手術が必要になり、当院では患者さんにとってリスクが大きいため、対応しておりません。
Q. 裏側矯正は痛みが強いと聞いて不安です…
A. 確かに装着初期は舌に違和感を感じますが、1週間程度で慣れる方がほとんどです。この違和感により悪い舌癖に気づくことができ、より良い治療結果につながることもあります。
Q. 仕事で人と話すことが多いのですが、発音に影響ありますか?
A. 装着直後は多少の影響がありますが、1〜2週間で慣れて自然に話せるようになります。接客業の方も多数治療されていますので、ご安心ください。
Q. 治療後、元に戻ってしまうことはありませんか?
A. 適切な装置、保定、経過観察、そしてMFTなどのトレーニングを行えば、元に戻りません。元に戻るのは、ドクターの技術不足か、患者さん自身のトレーニング不足のいずれかです。
最後に|正しい情報を知った上での判断を

「しゃくれが気になる」というお悩みに対して、インターネット上には「矯正で簡単に治る」という楽観的な情報も多く見られます。しかし、現実はもう少し複雑です。
大切なのは、正しい情報を知った上で判断すること。現実問題として、以下を理解しておいてください。
- 日本人の反対咬合の約2/3は骨格性で、外科手術が必要なケースが多い
- 歯性や機能性反対咬合であれば、矯正治療で美しい改善が期待できる
- 外科手術にはリスクが伴う
- 当院では歯性や機能性反対咬合の治療を積極的にお勧めしている
もし「自分の場合はどうなの?」と思われたら、まずは専門医による正確な診断を受けることをお勧めします。
当院では、患者さんお一人おひとりの状態を詳しく診査し、メリット・デメリットを包み隠さずお話しした上で、最適なアプローチをご提案しています。
美容系の安直な情報に惑わされず、医学的根拠に基づいた正しい判断をしていただければと思います。