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上顎前突(出っ歯)の治療に保険適用はできる?条件や診断基準

「出っ歯の治療って保険使えるの?」
「矯正したいけど治療費が心配…」
「自分は保険適用の対象になる?」

上顎前突(出っ歯)の治療を考え始めたとき、真っ先に頭をよぎるのが費用のことではないでしょうか。見た目や機能的な悩みを抱えながらも、経済的な面で治療を先延ばしする方も少なくありません。

結論からいうと、上顎前突の治療では保険適用できるケースはあります。ただし、誰でも対象になるわけではなく、明確な条件があるため注意が必要です。

私は歯科医師として25年以上にわたり、軽度から重度まで上顎前突で悩む多くの患者さんの治療に携わってきました。この記事では、上顎前突の治療で保険適用を受けるための条件や診断基準、自費診療との違いなどをわかりやすく解説していきます。

あなたが前向きに治療を検討できるよう、実用的な情報をお届けします。

上顎前突治療の保険適用条件や診断基準は?

上顎前突治療の保険適用条件を知る

上顎前突とは、上の前歯や上顎全体が前方に突き出ている状態のことです。一般的には「出っ歯」と呼ばれており、見た目のコンプレックスだけでなく、

  • 口が閉じにくい
  • 発音がしづらい
  • 食べ物を噛みにくい

といった機能的な問題を抱えている方も少なくありません。

上顎前突の治療で、保険適用を受けられるかどうかは、主に「顎変形症」と診断されるかが大きなポイントです。顎変形症とは、顎の骨格そのものに重度のズレや変形があり、歯列矯正だけでは根本的な改善が見込めない状態を指します。

一般的に、歯の傾きだけに問題がある場合や、矯正治療のみで改善が見込める軽度のケースでは、保険適用の対象にはなりません。つまり、保険が使えるのは、顎の骨格に著しいズレがあり、外科手術を伴う治療が必要と判断された場合です。

このとき、正確な診断にはレントゲンやCT撮影などの精密検査が必要です。これらの検査によって、顎の骨のズレの程度や噛み合わせへの影響を詳しく調べていきます。

歯科矯正で保険適用になる3つのパターン

歯科矯正治療で保険適用を受けられるのは、厚生労働省が定める特定の条件を満たした場合に限られます。上顎前突の治療においても、以下の3つのパターンのいずれかに該当する必要があります。

パターン内容上顎前突での該当
①指定疾患に起因する咬合異常唇顎口蓋裂などの先天性疾患が原因稀にある
②永久歯萌出不全に起因する咬合異常前歯及び小臼歯の永久歯のうち3歯以上の萌出不全に起因稀にある
③顎変形症顎の骨の手術が必要多くはこちら

※②の補足:埋伏歯開窓術を必要とするものに限る
※③の補足:顎離断等の手術を必要とするものに限る

上顎前突で保険適用を検討する場合、多くのケースで該当するのが、前述した③の「顎変形症」です。ただし、生まれつき唇顎口蓋裂(しんがくこうがいれつ)などの先天性疾患がある方は、①のパターンで保険適用になる可能性があります。

①の指定疾患には、唇顎口蓋裂、ダウン症候群、骨形成不全症など、厚生労働大臣が定めた疾患が該当します。これらの指定疾患が原因で上顎前突になっている場合は、顎の骨を切る外科手術を伴わない矯正治療でも保険適用となります。

このとき、治療は厚生労働大臣が定めた施設基準を満たす指定自立支援医療機関(育成・更生医療)で受ける必要があります。

②の永久歯萌出不全については、前歯及び小臼歯のうち永久歯が3歯以上、顎の骨の中に埋まったままで生えてこない状態(埋伏歯)で、それが上顎前突の原因となっており、埋伏歯開窓術が必要と判断されるケースです。

まとめとして、厚生労働省のサイトに公開された歯科矯正の保険適用基準を掲載しておきます。

歯科矯正は、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関において行う別に厚生労働大臣が定める疾患に起因した咬合異常、3歯以上の永久歯萌出不全に起因した咬合異常(埋伏歯開窓術を必要とするものに限る 。)又は別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生(支)局長に届け出た保険医療機関において行う顎変形症(顎離断等の手術を必要とするものに限る。)の手術の前後における療養に限り保険診療の対象とする。

※引用:保険診療の理解のために【歯科】

ほとんどの上顎前突の方は、①や②には該当せず、③の顎変形症として保険適用を検討することになります。次の項目で、顎変形症の詳しい診断条件を見ていきましょう。

顎変形症と診断されるための条件とは?

顎変形症として保険適用を受けるには、いくつかの明確な条件があります。これらの条件をすべて満たさなければ、どれだけ悩んでいても自費診療となってしまうのです。

  • 顎の骨格に著しいズレや変形が認められる
  • 矯正治療のみでは改善が見込めない骨格的な問題がある
  • 噛み合わせや咀嚼機能に重大な支障をきたしている
  • 外科的矯正治療(手術)が必要と判断される
  • 顎口腔機能診断施設の指定を受けた医療機関で治療を受ける

診断においては、矯正治療による歯の移動だけでは改善が見込めないほどの重度の骨格的なズレが必須要件となります。また、診断基準は医療機関や担当医の判断によっても異なるため、他の医療機関で顎変形症と診断されても、別の施設では適応外と判断される場合もあるでしょう。

「保険が使えると思っていたのに…」と落胆される方もいらっしゃいます。ただ実際のところ、上顎前突の多くは審美目的、比較的軽度や中等度のケースであり、自費診療となる場合がほとんどです。

保険適用で治療するメリットとデメリット

保険適用で上顎前突の治療を受けられれば、確かに費用負担を軽減できます。しかし、メリットだけでなくデメリットもしっかり理解しておく必要があります。

保険適用のメリットは、やはり経済的な負担の軽さです。さらに高額療養費制度を利用すれば、所得に応じて月々の負担額に上限が設けられるため、トータルの負担額を抑えられるでしょう。

一方で、デメリットも無視できません。まず、治療方法の選択肢が限られます。保険診療では使用できる装置や治療法が決められているため、自費診療のような自由度はありません。特に矯正装置は、表側に金属のブラケットを付ける方法が基本となります。

また、外科手術により全身麻酔での入院が必要です。入院期間は通常1~2週間程度とされています。

手術にはリスクも伴い、術後の腫れや痛み、退院後も約1カ月間の安静期間が必要となる場合があるなど、仕事や学業への影響も考えなければなりません。※症状の程度や個人差によって期間は異なります。

保険適用にこだわるあまり、自分に本当に合った治療法を見逃してしまうのは望ましくありません。費用と治療内容のバランスを考えながら、納得できる選択をすることが大切だと私は考えています。

以上、上顎前突の治療における保険適用の条件や診断基準について解説しました。

上顎前突の保険適用外の治療費はいくら?

上顎前突の保険適用外の治療費を相談

自費診療での上顎前突の治療費は、選択する方法によって異なります。

ここでは、自費診療での費用相場や各方法の違いについて詳しく見ていきましょう。

自費診療での治療方法別の費用相場を比較

上顎前突の矯正治療には、主に3つの方法があります。

治療方法費用相場装置の見え方適応範囲
裏側矯正100万~150万円
ほぼ見えない

軽度~重度
表側矯正60万~130万円
とても目立つ

軽度~重度
マウスピース矯正80万~120万円
目立ちにくい
※変色する場合あり

軽度~中等度

表中の費用はあくまで一般的な目安で、実際の金額は症例の難易度や治療期間、医院によって変わります。カウンセリング時にしっかりと見積もりを出してもらい、納得してから治療を始めることをおすすめします。

表側矯正・裏側矯正・マウスピース矯正

まず表側矯正は、歯の表面に金属やセラミックのブラケットを装着する方法です。多くの症例に対応でき、費用は比較的抑えられますが、装置が外から見えるため、日常や仕事で気になる方も多いでしょう。

裏側矯正は、軽度から重度まで幅広い症例に対応でき、さらに歯の裏側に装置を付けるため、外からほとんど見えません。当院では長年この裏側矯正に特化してきましたが、治療期間中の精神的なストレスを考えると、価値のある選択だと私は感じています。

治療を終えられた患者さんからも、

  • 「見た目を気にせず過ごせたのが何より安心だった」
  • 「矯正していることを気にせずプライベートを楽しめた」

といった声をよくお聞きします。

裏側矯正と表側矯正のどちらを選ぶべきか迷われる方は少なくありません。仕上がりの違いについて知りたい方は、下記の記事もチェックしてみてください。

最後にマウスピース矯正は、透明なマウスピースを装着して歯を動かす方法です。取り外しができるため、食事や歯磨きがしやすいなどのメリットがあります。

しかし、重度の出っ歯や骨格に起因する症例では、対応できない場合があります。また、通常20~22時間/日の装着が必要になるため、自己管理が難しい方は要注意です。

裏側矯正とマウスピース矯正について、それぞれの特徴やメリット・デメリットが気になる方は、インビザラインを取り上げた下記の記事が参考になります。

全体矯正と部分矯正の違いと選び方

矯正治療には、すべての歯を動かす「全体矯正」と、気になる部分だけを動かす「部分矯正」があります。費用だけを見れば部分矯正のほうが安く済みますが、原則として全体矯正をおすすめします

なぜなら、部分矯正で特定の歯のみを動かした結果、上下の噛み合わせが不自然になる事例も多いからです。

前歯の見た目だけを整えても、奥歯の噛み合わせがズレていれば、食事のときに違和感が残ったり、顎に負担がかかる場合があります。また、動かした歯の周囲の歯に余計な力がかかり、新たな問題を引き起こす可能性もあるのです。

私がこれまで診てきた患者さんの中にも、他院で部分矯正を受けた後に噛み合わせの不具合で悩み、結局全体矯正でやり直した方がいらっしゃいます。最初から全体矯正を選んでいれば、時間もお金も無駄にせずに済んだケースです。

上顎前突の矯正治療は、上の歯だけでなく上下の歯並び全体のバランスを整える必要があります。根本から改善するには、全体矯正でしっかりと治療することが大切といえるでしょう。

この機会に、部分矯正のデメリットやリスクも知っておきたい方は、下記の記事もあわせてご覧ください。

以上、保険適用外での治療費について、方法別の相場などを紹介しました。費用面だけで判断せず、治療期間中の見た目や生活への影響も含めて、総合的に検討することが納得できる治療選びにつながるでしょう。

保険適用外の上顎前突で医療費控除は使える?

保険適用外の上顎前突で医療費控除

保険適用外の自費診療でも、医療費控除という制度を活用できる可能性があります。医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告をすることで所得税や住民税が軽減される仕組みです。

1つの参考例ですが、所得税率20%の方が130万円の医療費を支払った際、所得税の還付が約24万円、翌年度の住民税の軽減が約12万円で、合計約36万円の軽減効果がありました。

矯正治療の費用も条件を満たせば対象になるため、もし該当するなら活用しない手はありませんね。

※控除額や還付額は、総所得金額や他の控除の状況により異なります。詳しくは税務署または税理士にご相談ください。

医療費控除が使える条件とは?

医療費控除を受けるには、いくつかの条件があります。まず、1月1日から12月31日までの1年間に支払った医療費の合計が、10万円(年間所得が200万円未満の方は所得の5%)を超えていることが基本です。

大人の歯列矯正の場合、具体的には以下のような診断がされた治療が対象となります。

  • 噛み合わせの改善が必要と診断された治療
  • 発音障害の改善を目的とした治療
  • 咀嚼機能の回復を目的とした治療
  • 歯科医師が機能的な問題があると診断した治療

これに対して、見た目の改善を主な目的とした審美目的の治療は対象外です。美容整形と同じ扱いになるため、どれだけ費用がかかっても控除は受けられません。

上顎前突は医療費控除の対象になる?

上顎前突のケースでは、見た目のコンプレックスだけでなく、実際に機能的な問題を抱えている方が多くいらっしゃいます。

見た目の改善を希望して受診した場合でも、歯科医師の診断によって機能的な問題が認められれば、医療費控除の対象となる可能性はあるでしょう。

ただし、医療費控除の適用可否については、治療の必要性を歯科医師が判断した上で、最終的な税務上の判断は税務署が行います。不安な場合は、所轄の税務署に事前確認することをおすすめします。

以上、保険適用外の上顎前突治療における医療費控除について解説しました。制度をうまく活用することで、自己負担を和らげることができるでしょう。

歯列矯正の医療費控除について、さらに詳しく知りたい方は下記の記事もあわせてご覧ください。

まとめ:自分に合った治療方法を選択しよう

上顎前突の治療で保険適用を受けられるかどうかは、主に顎変形症と診断されるかが分かれ道といえます。しかし、たとえ保険が使えなくても、それを理由に諦めるのは本当にもったいないです。

自費診療には自費診療の良さがありますし、経済的な負担は、医療費控除や分割払い、デンタルローンなどで軽くする方法もあります。

大切なのは、保険適用の有無だけで判断するのではなく、自身の歯の問題にとって何が最適かを総合的に考えることです。その上で優先順位をはっきりさせることが、後悔しない選択につながります。

裏側矯正なら、装置が外からほぼ見えないため、仕事やプライベートで人と接する機会が多い20代、30代の方にとって、精神的なストレスをぐっと減らせるでしょう。治療中も自然な表情で過ごせることは、想像以上に大きなメリットです。

私が長年にわたって裏側矯正を専門にしてきた理由の1つは、まさにこの「治療中の見た目」にあります。治療期間中、見た目を気にせず過ごせる患者さんが、通院のたびに自信に満ちた表情へと変わっていく姿を何度も見てきました。

今のあなたは、

  • 口元に手を当てて話したり笑ったりしていませんか?
  • 写真では口を閉じたまま笑顔を作ったりしていませんか?

そんな小さな我慢から解放される日が来るとしたら、どうでしょうか。

この記事を読んで、上顎前突の治療を少しでも前向きに考えられるようになれば嬉しく思います。あなたに合った治療方法は、きっと見つかります。

執筆・編集:竹田 彰

大宮の裏側矯正専門セレーノ矯正歯科の院長、竹田です。25年以上にわたって裏側矯正を専門に治療してきました。歯並びを整えることはもちろんですが、それ以上に、顔全体のバランスを美しく保ちながら、自然な笑顔を引き出すことを信念にしています。

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大宮の裏側矯正専門セレーノ矯正歯科は、口ごぼ、出っ歯、すきっ歯など歯並びでお悩みの方のための目立たない歯列矯正を行っています。歯並びや噛み合わせだけではなく、健康的で美しい笑顔を目指しています。すべての調整はキャリア25年以上の院長が担当しますので、ご安心ください。歯を見せて思い切り笑顔になれる人生を選択しませんか?