「八重歯がかわいいってなぜ?」
「矯正した方がいいのか迷う…」
「かわいい印象なら放置しても…」
世間一般には「八重歯はかわいい」と言われることが多いですよね。ただ一方で、当事者としては日常生活での不便さやこの先への漠然とした不安を感じてはいませんか?
私はキャリア25年以上の歯科医師として、現在は埼玉県で裏側矯正を専門に、数多くの八重歯の患者さんと向き合ってきました。この記事では、八重歯の世間的な魅力と問題点の両面を公平にお伝えし、「今すぐ治療すべきなのか?」納得のいく判断を下すための材料をご提供します。
あなたが自分らしい選択をするサポートができれば、医療従事者として嬉しく思います。
も く じ
Toggleなぜ八重歯はかわいいと言われる?海外との違い

八重歯への価値観は、実は国や文化によって大きく異なります。日本では「かわいい」と言われる八重歯も、海外では必ずしも魅力的とは見なされません。
日本独特の八重歯の印象を理解する
まず、日本人が八重歯をかわいいと感じやすい理由には心理的な要因があります。
人間は本能的に幼い特徴に愛らしさを感じる傾向があり、八重歯は視覚的な「幼さ」の演出にひと役かう場合があります。そして、その幼さにより、親しみやすさや守ってあげたい気持ちを呼び起こすことがあるのです。
また、八重歯は個性的で印象に残りやすい特徴でもあります。画一的な美しさではなく、その方独特の魅力として記憶に定着しやすく、チャームポイントとしての役割を果たすことがあります。
そして、これらの心理的効果に加えて、日本特有の文化的要因も影響しているでしょう。特にアニメや漫画などの文化が、元来あった八重歯への好意的な印象をさらに強くし、現代まで定着させる役割を果たしたと考えられます。
海外では八重歯をどう捉えるかを知る
一方、アメリカやヨーロッパの欧米諸国では、八重歯に対する認識が日本とは大きく異なります。歯並びの美しさに対する基準が厳格で、八重歯は改善すべき問題として捉えられています。
欧米の文化では、整った歯並びが自己管理能力の象徴とされる傾向があります。その背景には、宗教的・歴史的な影響もあり、例えば尖った犬歯は時として悪魔的なイメージと結び付けられることもありました。
現代でも、八重歯は「野性的」「攻撃的」といったネガティブな印象を与える場合があるのです。
また、海外の一部の国では幼少期からの矯正治療が一般的で、八重歯を含む歯並びの問題は子供のうちに解決する慣習が根付いています。このため、成人になってから八重歯を持つ人の割合は日本に比べて少ないとされています。
こうした文化的背景により、国際的な環境で活動する際には、八重歯が思わぬマイナス印象を与える可能性も考慮する必要があります。グローバル化が進む現代において、将来のキャリアや人間関係を考えた選択も、治療に向けた1つの判断材料となるでしょう。
かわいい八重歯に6つの問題点!矯正歯科医が警告

八重歯がなぜかわいいと言われるのか、日本での印象的な側面をお話ししましたが、矯正歯科医の私としては、健康面でのリスクもお伝えする必要があります。
ここでは、八重歯に潜む6つの問題点について解説していきます。
虫歯や歯周病になりやすい
「毎日きちんと歯磨きしているのに、なぜか虫歯ができてしまう…」
そんな経験はありませんか?八重歯をお持ちの方からよく聞く悩みの1つです。
八重歯は歯が重なり合って生えているため、歯ブラシやフロスが入り込めない隙間が生じやすくなります。通常の歯並びと比べて歯垢の除去が困難で、八重歯周辺は清掃不良になりやすいです。
特に注意したいのは、八重歯の内側(舌側)です。ここは鏡で見ることも難しく、患者さん自身が問題に気づきにくい部分になります。当院でも、八重歯の患者さんにはこの部分に初期虫歯や歯肉炎が見られる傾向があります。
さらに深刻なのは、一度虫歯になると治療も困難なことです。八重歯部分は器具が入りにくく、精密な治療が制限されるため、結果的に歯の寿命に影響を与える場合があります。
噛み合わせが悪く他の歯の負担が大きい
「奥歯が痛むようになった…」
「最近、顎が疲れやすくなった…」
このような症状に心当たりはありませんか?実は、八重歯が原因で起こっている可能性はゼロではありません。
八重歯があると、上下の歯がきちんと噛み合わなくなります。本来、正常な歯並びでは食べ物を噛む際の力がすべての歯に均等に分散されるものです。しかし、八重歯により一部の歯が正常な位置から外れると、この力の分散バランスが崩れる場合があります。
私が診察してきた経験では、八重歯の患者さんの多くが、奥歯に強い負担をかけている傾向が見られます。これは、噛む力が一部の歯に集中することで起こる現象です。
特に問題なのは、この状態が長期間続くことです。過度な負担を受け続けた歯は、早期に摩耗したり、歯根破折(しこんはせつ)のリスクが高まるなど、健康な歯と比べて寿命に影響するおそれがあります。また、本来の噛み合わせのバランスが崩れることで、顎関節への負担が増加する場合もあるでしょう。
噛み合わせの悪さは全身への影響も無視できません。顎の筋肉の緊張が首や肩の筋肉にまで波及し、慢性的な肩こりや頭痛の一因となることもあります。
※歯根破折とは、歯の根の部分(歯根)にひびが入ったり折れたりする状態のことです。
噛み合わせと健康の関係について、より詳しく知りたい方は下記の記事もご覧ください。
口の中を傷つけて口内炎になりやすい
「いつも同じ場所に口内炎ができる…」
「話している時に舌を噛んでしまう…」
そんな経験が頻繁にある方は、八重歯が1つの原因かもしれません。八重歯は通常の歯列から飛び出しているため、頬や唇の内側、舌と接触する機会が増えます。この慢性的な刺激が、様々な口腔内トラブルの引き金となるのです。
私の診察では、八重歯をお持ちの患者さんに「繰り返す口内炎」でお悩みの方が少なくありません。特に問題なのは、同じ箇所に何度も口内炎ができることです。
【慢性刺激による悪循環】
- 八重歯が口腔内組織に接触する
- 細かな傷が頻繁に発生する
- 傷口から細菌が侵入しやすくなる
- 炎症が治りにくい環境が続く
また、口内炎ができると、無意識にその部分を避けて話したり食事したりするため、口の動きが不自然になることがあります。これがさらに別の部位への刺激を生み、新たなトラブルの原因になりやすいのです。
重要なのは、これらの症状を「仕方ない…」と諦めないことです。根本的な解決には、その刺激の原因である八重歯への矯正を検討するケースが多いです。
なお、同じ箇所に繰り返しできる口内炎は、慢性的な刺激により細胞の修復過程が頻繁に起こります。そのため、将来的な口腔内の健康リスクとして注意が必要です。症状が長期間続く場合は、早期の対策を検討することをおすすめします。
口呼吸や口臭の原因になりやすい
「無意識に口で息をしている…」
「口の中がネバネバして気持ち悪い…」
もしかすると、これらの悩みも八重歯と関係があるかもしれません。八重歯があると、上下の唇がきちんと閉じにくい場合があります。これは八重歯が物理的に唇の閉鎖を妨げるためです。その結果、無意識のうちに口呼吸の習慣が身についている方も多いです。
口呼吸は単なる呼吸方法の違いではなく、口の中の環境にマイナスの影響を与えます。正常な鼻呼吸では、鼻腔で空気が温められ、湿度が調整されてから肺に届きます。しかし口呼吸では、乾燥した空気が直接口腔内に入るため、唾液が蒸発しやすくなり、口の中が乾燥してしまうのです。
また、私が診察している八重歯の患者さんには、口臭を気にされる方も見られます。「歯磨きをしっかりしているのに、なぜか口臭が気になる」という相談を受けることもよくあります。
唾液には口腔内を清潔に保つ重要な機能があります。細菌の増殖を抑制し、食べかすを洗い流し、歯の再石灰化を促進する作用があるのです。この機能が低下すると、虫歯や歯周病のリスクも高まる場合があります。
犬歯本来の機能が十分に発揮されない
「食事に人より時間がかかる…」
「硬いものを避けがちになった…」
このような変化を感じている方は、犬歯(けんし)の機能不全が関係している場合もあります。
犬歯は、前歯から数えて3番目に位置する歯の名称で「切り裂く」機能に特化した歯です。その鋭く尖った形状は、肉や野菜を効率的に切断するために進化したものです。しかし、八重歯により犬歯が正常な位置にないと、この重要な機能が十分に発揮されません。
私が患者さんに「普段の食事で困ることはありますか?」と質問すると、八重歯の方の多くが「肉類が噛み切りにくい…」などの具体的な困りごとを挙げられます。
特に問題なのは、犬歯が機能しないことで周囲の前歯や小臼歯に過度な負担がかかることです。これらの歯は本来、犬歯ほど強い力に耐える構造になっていません。結果として、前歯の摩耗や欠け、小臼歯の痛みといった二次的な問題が生じる場合があります。
また、咀嚼不足は消化器官への負担増加にもつながります。十分に咀嚼されていない食べ物は、胃や腸での消化により多くのエネルギーを必要とするからです。「食後に胃がもたれやすい」という症状は、実は八重歯による咀嚼不足が関係している場合もあります。
そもそも八重歯と犬歯の違いがよくわからないという方も多いのではないでしょうか。詳しく知りたい方は、下記の記事もあわせてご覧ください。
30代ごろ急激に老け顔になりやすい
「最近、写真を見ると老けたなぁ…」
「同年代の友達より疲れて見える…」
30代ごろ、そんな風に感じる方が少なくありません。まず、歯茎や口元の筋肉は、30歳を過ぎて衰え始める傾向があります。
特に40代を迎えると、ほうれい線やたるみが目立ちやすくなり、この時期に八重歯や歯並びの乱れが「老けて見える一因」として、より強調される方も多いのです。
例えば、八重歯のせいで唇が閉じにくくなり、口元の筋肉を適切に使えない状態が続くことがあります。この状態が長年続くと口周りの機能や筋力低下が進み、歯並びが良い方に比べて、ほうれい線やたるみの進行を早める場合があるわけです。
また、八重歯により噛み合わせが悪くなると、顔全体の筋肉バランスにも影響を与えかねません。片側だけで噛む癖がついたり、特定の歯に力が入りすぎることで、顔の左右差や表情の硬さにつながるのです。
もし心当たりがある方は、見た目年齢を左右する要因の1つとして、早めの対策をおすすめします。
以上、八重歯が引き起こす6つの深刻な問題点について、私の経験を踏まえて詳しく解説しました。多くの方が「まさか八重歯でこんな影響があるなんて…」と驚かれますが、これらは決して珍しいことではありません。あなたにも思い当たる症状はありませんでしたか?
八重歯は今すぐ矯正すべき?治療の必要性と判断基準

八重歯がかわいいと言われても、健康面での問題点はやはり無視できません。そこで、「私の場合はどうなの?」と迷われる方も多いでしょう。
ここでは私の25年以上の経験から、治療の必要性を判断する「おおよその基準」をお伝えします。治療のタイミングを逃すと、将来的に複雑な問題に発展する可能性もあるため、適切な知識を身につけましょう。
矯正治療が必要な症状をチェックする
八重歯による健康への影響を見極めるには、以下のチェックリストを活用してみて下さい。複数の項目に該当する場合や、日常生活に支障がある場合は、早めに矯正歯科医への相談をおすすめします。
□ | チェック項目 | 症状の詳細 |
---|---|---|
□ | 歯磨きが困難 | 八重歯の裏側に歯ブラシが届かない |
□ | 歯垢の蓄積 | 八重歯周辺に白い汚れが溜まりやすい |
□ | 歯茎の炎症 | 歯茎が赤く腫れたり出血したりする |
□ | 口内炎 | 八重歯が頬や唇の内側を傷つける |
□ | 口呼吸 | 口が閉じにくく口呼吸になることがある |
□ | 口臭 | 口臭が気になることがある |
□ | 他の歯の負担 | 虫歯でないのに特定の歯が痛む |
□ | 食べにくさ | 前歯で食べ物を噛み切りにくい |
当院では、これらの症状を詳しく分析し、根本的な原因から治療計画をご提案しています。表面的な見た目だけでなく、なぜその歯並びになったのかを詳しく調べることが大切だからです。
治療のタイミングを見極める
治療の必要性があっても、どの程度急ぐべきかは症状によって異なります。以下の表で治療の優先度を確認してみて下さい。
症状の程度 | 推奨する対応 |
---|---|
機能的な問題が複数 | 早期の治療を検討する |
清掃困難で腫れや出血 | 治療を前向きに検討する |
軽度の審美的問題 | 価値観や審美的希望に応じて検討する |
自覚症状なし | 定期的な歯科検診で様子を見る |
※機能的な問題が複数とは、清掃困難・噛み合わせ異常・口呼吸など複数の症状がある
特に治療をご検討いただきたいのは、機能面でのリスクが高いケースです。八重歯によって他の歯に負担がかかっている場合、放置すると歯周病や噛み合わせの悪化など、より複雑な問題に発展することがあります。
八重歯の矯正を迷っている方へ
ここまで、八重歯の治療判断について詳しく解説しました。かわいいという周囲の声に惑わされず、あなた自身の口腔健康を第一に考えた選択をして下さい。
当院での治療結果を見ると、矯正後のほうがより美しく調和のとれた顔立ちになる方が多い傾向です。機能面だけでなく、審美的な観点からも矯正治療にはメリットがあることを実感しています。
ただし、歯科医の技術不足によって、治療後の口元が不自然になったり、老けた印象になるケースもある点には要注意です。しかし当院では、積極的にトレーニングを実践していただくことで、むしろ若々しい印象につながる方が多く見られます。
八重歯の矯正治療には複数の方法があり、それぞれにメリットデメリットがあります。どの治療法が自分に合っているのか、信頼できる歯科医院の選び方など、八重歯矯正について総合的に知りたい方には、下記の記事が参考になります。
まとめ:八重歯は見た目と健康のバランスを考えて

なぜ八重歯はかわいいと言われるのか、前半で解説したように確かに魅力的な側面があります。日本特有の文化として愛され、親しみやすさや個性を演出する要素であることも事実です。
一方で、見た目の可愛らしさの裏には、虫歯や歯周病のリスク、噛み合わせの問題など、健康に直結する課題が潜んでいることもお伝えしました。
「八重歯がかわいいって言われた。けど、本当にこのままでいいのかな?」そんな迷いを抱える方も多いと思います。この記事を読み返しながら、まずは現在のあなたの状況を整理してみて下さい。
- 八重歯による具体的な症状や不便さを感じているか?
- 将来的な健康のリスクをどの程度理解しているか?
- 見た目への満足度と改善への希望のバランスはどうか?
- 矯正治療に対する時間的や経済的な準備はどうか?
これらの要素が、自身の八重歯と向き合う第一歩になると思います。そして、具体的な治療の必要性の検討には、記事で紹介したチェックリストもぜひ活用してみて下さい。
もし治療を検討される場合、矯正方法の選択も重要なポイントです。歯の表側につける一般的な矯正装置では治療中の見た目が気になりますが、当院が専門とする裏側矯正であれば、周囲に気づかれることなく、八重歯の矯正を進めることも可能です。
「矯正したいけれど、装置が見えるのは嫌…」という方にとって、裏側矯正はとても有効な選択肢です。社会人の方や接客業の方など、見た目を気にされる多くの方が裏側矯正を選択されています。
八重歯の程度や影響は個人差が大きく、同じように見えても治療の必要性は一人ひとり異なります。経験豊富な矯正歯科医による現状把握により、あなたが検討すべき道筋が見えてくるはずです。
あなたが健康な歯を将来も維持していけるよう、適切な情報と選択肢を提供することが私たちの役割です。八重歯との向き合い方は人それぞれですが、後悔のない選択をしていただきたいと願っています。